THE BRINK OF TIME

自分が高校1~2年くらいの頃だったろうか、おかんが駅前のレンタル屋で定期的にCDを借りてエンヤやら何やらを聴いていたのだが、ある日おもむろに「クロノ・トリガーのCDあったわよ」と1枚のCDを借りてきた。

おぉサントラかなと見てみると、ジャケットにはどうにもクロノ・トリガーと関係のなさそうな目玉焼きが写っている。とりあえずかけてみると、よく分からない足音から始まるが確かにあの旋律は流れてくる……そして謎の英語シャウトとよく分からんトランペットソロ。正体は「THE BRINK OF TIME」というアレンジアルバムだった。

色々と多感な思春期の少年には「こういうのもいいよね」と鷹揚に構える余裕もなく、素晴らしい原曲を変に引っ掻き回す、小っ恥ずかしいものとしてろくすぽ聴かずにいた(ただ、表題曲でもある「THE BRINK OF TIME」、すなわち時の最果てだけは純正ジャズアレンジというのもあって、ソプラノサックスのソロをコピーして吹いていた)。

そして、鈍感な大人になって聴いてみると、結構いいではないかとなる。元々の素材がいいのはもちろんとして、ゲームのシーンにぴたっと当て書きされているものを、(成功の度合いはそれぞれだが)よくぞこうアレンジしたものだと思う。3曲目のジール宮殿などは、原曲は荘厳な雰囲気で、自分などにはなかなかロック(と少々のアシッドジャズか)調にすることは思い及ばない。魔王決戦も同様で、原曲のイメージを敢えて崩してくるようなミドル~スローテンポでのロックアレンジ(個人的にはあんまり好きでないが…)である。

作曲者本人アレンジ、しかもゲーム発売からそう間を置かない発売とのことで、作曲の時点でこれだけの曲の「横の可能性」(=異ジャンルへの展開性)を想定していたことに驚く。時折ある少し意地悪なアレンジは己の曲の横の可能性を試そうとしているストイックな姿勢であろうし、それは、どう料理しても俺の曲は旨いんだと、素材への自信がある故のことでもあるのだろう。鳥山&堀井&坂口の鮮烈なイメージを除いたときに残る俺の音楽のエッセンスはこれだ、と見せたかった思いもあるのではないか。

……もしかすると、こちらがそもそも「元」で、原曲がクロノ・トリガーの世界観に寄せたアレンジである可能性もあるのかもしれない。それを類推できるほど光田氏のスクウェアデビュー前の足取りを自分は知らないが……少なくともオープニング曲やエンディング曲にはその匂いを感じる。

そのエンディング曲の、何とも言えない女性ボーカルがまた思春期の自分にはかなり小っ恥ずかしかったのだが、これは次回作のクロノ・クロスゼノギアスでボーカル曲が導入される先鞭で、構想自体はこの頃からあったのだろう(いかんせんSFCで声の再現は厳しかった…FF6参照)。いずれにせよ、一クロノ・トリガーフリークにとっては、このアルバムの存在そのものが光田氏の音楽の構想やルーツを示す一級の資料であるのは間違いない(そして…その後の光田氏の展開からしても、ドリームチームという大舞台と枷が、クロノ・トリガーの保守性と革新性の両面を備えた唯一無二の音楽世界を作ったのかなとも思う)。