夜の風

22日深夜、天気が変わり始めたあたりの話。

昨晩よく眠れなかったせいか、仕事から帰るとすぐさまぐっすり寝てしまい、気付けば夜の11時だ。やる気が出ないので、買ったばかりの萩尾望都バルバラ異界』を読む。『ポーの一族』と同じように、最初に説明なしに世界を提示しておいて、徐々に説明を加えて行く構成。おかげで最初は??だったものの、ついつい一気に読んでしまう。スケールのでかい話で、読後軽い放心状態に。
気がつけば丑三つ時の2時。音楽をかけるがすぐ邪魔になり消す。ここ最近にしては珍しく気分のいい晩だなぁ、と思ったら、いつの間にかすっかり晴れていた。風が吹いて絶えず葉ずれの音が鳴っている。それで音楽が邪魔になったのか。風は暖かいが湿っておらず、心地いい。少しだけ散歩をする。

バルバラ異界』は、記憶と夢の話だった。古い生命の記憶、意識の底、過去と現在と未来と意思の干渉とか何とか、そんな感じだ。だからだろうか、それとも風の音がトリガーとなっているのだろうか、いつの間にか埼玉のとある郊外の団地に住んでいたことを思い出していた。そこは風の強いところで、主に冬だが、住んでいた団地のアンテナの震える音響と、隣にある雑木林が揺れる音がよく鳴っていた。風というのは大抵お昼くらいから夕方にかけて吹いて、夜には止むものだ。なのに、自分の記憶に強く残っている風は、夜も止まず、アンテナと雑木林を揺らし続け、木々の間を吹き抜けていた。

そんな音を聞いて風に翻弄される木々を思い浮かべながら、安全で暖かい家に居ることを噛み締めつつ、布団で眠りにつくのだった。当時自分はとても寝付きが悪く、やっと寝れても悪夢ばっかり見ていたが、風の音を聞きながら寝るイメージでは、自分は深い眠りに落ちている。
心地よさのあまり、どこかに行きたくなるが、行くあても思いつかず、10分くらいで伯楽に戻る。
何故か分からないが、いつもと違っておどろおどろしさのない、優しい夜だ。月はなく、雲もあまりないのにちょっと明るい晩で、黒々とした林のふところに抱かれた6畳棟と、その隣にぽっかりと空いた空き地。入り口にぼうっとした明かりを掲げた、かつての4畳半棟が見えるかのようだ。なんだか、久しくそこに4畳半棟があって、その景色を自分はとても好きで、飽きもせず同じアングルで写真を撮っていたことを忘れていた気がした。今度は、4畳半があったころの賑やかな伯楽のイメージが思い出される。

今これを書いているのが夜の3時半。いつの間にか心地よさは消え、どんどん蒸し暑くなってきた。もう夜明けの気配、天気も明日のものに変わっていく。