怒りの葡萄

翻訳モノは大抵「この訳ありえねー」と放り出してしまうことが多いのだが、ほとんど一気に読んだ。この本も、よく分からない方言(これが百姓言葉だっていったら農業者が怒っちゃいますよ。といっても英語で表す以外に満足のいく方法なんてないんだろうけど)とか、おそらくHow are you?とかNice to meet you.とかHow do you doであろう文句を律儀にきっちり訳していたりと、そんなこんなはあったが、それでもスタインベックが本当に言いたかったであろうことはしっかりと伝わってきた、と感じた。そんなことはどうでもよくなる名作だったと思う。
 人々の日々の生活が好きで、生き抜いていこうと懸命になる人たちが好きで、その人たちのなかにある種の神聖ささえ見出す。最近自分も「なぜ旅が好きなのか、なぜ地理を学んでいるのか」という問いに対する一つの答えがそれだったので、この読書の旅はその漠然とした答えを確信たるものにしてくれた。
 カリフォルニアに行ってきた直後に読んで本当に正解だったなー。ベイカーズフィールドとか、サリナスとか、舞台になったところをそれと知らずに歩いていたわけだが、あの景色がどのようにして形作られていったのか、よく分かった。そして今もなおその構図が変わっていないことも。