不思議な出会い

越生にある墓参りに行こうと思ったものの、だるだるで、結局というか、いつものとおりというか、出発が午後になる。午後から崩れるという天気予報だったが、まああまり気にせずにまずは昔住んでいた街に向かう。
最近この街を懐かしいと思うこともなくなってきたが、やはり実際に行ってみると色々なことを思い出す。公園の隅に作った秘密基地、よく遊んだ雑木林、母親と散歩した川縁、もとのままのものも多いが、圧倒的に開発によってその姿を変えてしまった場所が多い。確かに開けて、店やマンションは増えたけど、ニュータウンが出来たてのころの、あの活気は失せてしまった。
昔の幼馴染の家を訪ねると、親父さんが出てきた。ほとんど接触のなかった人だが、インターホン越しに「Tです」と苗字を言っただけでわかってくれたようだ。この人は俺の声変わりした後の声も知らないだろうに、よくわかったものだ。残念ながら幼馴染は母親の実家に帰省していた。
 お茶工場の前を通り、小学校へと向かう。昔6クラスあった教室は3クラスに減っていた。教室の前の花壇、昔園芸委員会書記として名を馳せていた(笑)俺はよく水やりをしていたものだ。そのころはサルビアマリーゴールド、ひまわりにパンジーなど色々な花を植えていたものだが、草茫々になっていた。
 遊歩道を歩いていると、よれっとした自転車に乗り、腰に広告で作った剣を帯びた少年が併走してくる。目を合わせるとにかっと笑いかけてくる。せっかくなので、「何年生?」と話しかけてみると、2年生らしい。そこから今どんな遊びをしているのかとか、俺のころはこんな遊びをよくやったとか、彼の家族や学校の話とか、ナルトや鋼錬の話とかいろんな話をする。小学生と話すのはほんと久しぶりだったので、彼がどれだけ語彙があって、どんな思考法をしているのか、掴むのにちょっと手間取ったが、小学校二年生って結構話せるものだ。話が弾む。木登り、野球、ちゃんばら(という言葉を彼は知らなかったが)、秘密基地作り、虫取り、、、意外と俺たちがガキだったころと遊びの内容は変わっていないものだ。でも、全体的に過激さがなくなったように感じる。俺もいじめられっ子、彼もまたそうだったが、いじめも結構ソフトになっているようだ。いつのまにか一緒に木に登ったり、公園の水道を断水させたり、ツバメ返しを教えたり、秘密基地の材料探し(ようはゴミ捨て場漁り)と、3時間くらいたっぷり遊ぶ。濃密に子供時代のことを思い出していった。
最後に、雑木林でアイスを一緒に食べて別れた。「また遊びにきてね」と言われて、かなり嬉しかった。

と、ここで時計を見るとすでに5時。とても越生に行くどころではない。しかも雨まで降ってくる。このまま帰るのもしゃくなので、小6のころの旧友の家の前を通ることにした。彼の家はもと農家なので、誰かに会える確率は高いからだったかも知れない。案の定彼はいなかったものの、お母さんとおばあちゃんが外に出ているところに遭遇。挨拶をすると思い出してくれたようだ。かれこれ5年振りである。ついでにちゃっかりお茶とスイカまでご馳走になる。昔俺はかなり童顔だったのに、今はしっかりムサいので、「老けたねえ」を連発されてしまう。
 彼はチワワを飼い始めたようで、盛んに吠え付いてくるのだが、なんとか良好なコミュニケーションを築くことに成功する。彼が衝動買いしてきてしまったらしいのだが、すっかり家族に甘えきっていた。あのうるうるした目に見つめられると。。
 すると彼が帰ってきたようで、中学校以来の対面となった。お互いに「老けた」「おっさんになった」を連発しあう。彼は高校を中退してからずっと土方で働いてきて、去年現場監督に抜擢されたらしい。昔のやんちゃな(ドスは効いていたが)感じはすっかりなくなって、泰然自若な、落ち着いた、澄んだ印象。彼はとても筋の通った考えをしていたし、しっかりと「独立」という将来を見据えていて、その真っ直ぐな姿勢は本当に見習いたいと思った。
 お母さんにお金をもらって、近所の中華料理屋で乾杯、やっぱり3時間以上語り合う。共通話題は小学校6年生のころのことしかないのだが、本当に楽しいひと時で、話が尽きなかった。