というのは

ちゃんと前振りがあって、幸田文の『崩れ』という随筆を読んだのである。恥ずかしながら幸田文の文章を初めて読んだのだが、何というか、非常に女性らしい文章だなあという印象を持った。非常に「柔らかい」のである。五感で受け取った感覚が、とても自然に表現されていく。どうも、俺や他の男の人たちは素直に感動を表現したくても、達成感とか、自分がそれを発見した嬉しさとか、もしくはひたすら何かを極めていく過程の一部を築いたとか、そうではなくてもいじけた感じとか、修行僧が書いたような文章になってしまったりとか、うまくは言えないが何かしらの雑味が入ってしまうような気がするのである。もちろんその「雑味」は嫌いじゃないけど。幸田文はとても謙虚だし、文章も上手い。でも、それ以上のなにかがそういったものを全く感じさせないのである。

それでいて、大正生まれだからかどうかはわからないが、凛と筋の通った小気味いい文章だし、ときおりちょっと強情を張ってみるのも可愛らしい。幸田さんは当時72歳だったが、きっと会ったら女らしさをものすごく感じたことだろう。ああ、こういうのはかなわないなあと思う。